空売りとは、手元にない株式を証券会社から株式を借りて売り、決済期日までに買い戻して株式を返却、その差額で利益を狙う取引のこと。
しかし、株価を意図的に下落させる行為を防止するために法令で規制が定められています。
ここでは空売り規制について、また現時点の空売り規制銘柄一覧等、詳しく解説していきます。
目次
2020年より新型コロナウイルスの感染拡大が進み、金融市場は動揺しています。
2020年3月24日に麻生太郎財務・金融相は記者会見において、「相場の不安定さを増幅させることや不正行為が行われることがないよう警戒水準を高めて市場の動向を注視する」と述べ、「空売り規制」を強化すると発表しました。
株価の下落局面では空売りによって株価を意図的に下落させる投資家が増え、株式相場が混乱します。したがって、金融商品取引法や施行令によって空売りに規制が設けられています。
現在、新型コロナウイルスの感染拡大によって株価が下落傾向にあることから、政府は市場に不正行為がないかを監視を強めています。
麻生氏の発言を受けて、金融庁は証券取引等監視委員会やそれぞれの証券取引所と連携し、空売り規制を厳格に適用すると公表しています。
通常の現物取引では「買い」から入ります。底値で株式を購入し、高値で株式を売却することで差額を利益とします。
しかし、空売りでは「売り」から取引に入ります。
株式を保有していない状態で証券会社などから株式を借りて、売り建て、決済期日までに市場から株式を買戻して、証券会社などに株式を返却します。
ちなみに証券会社ではなく株主から株式を借りて、市場で売却することも空売りに含まれます。
通常、株価が下落傾向にある場合は株式投資を行って利益を上げることは難しくなりますが、空売りを活用すれば、下落局面であっても利益を狙うことができます。
空売りは金融市場の流動性を高めることに寄与しますが、株価の下落局面において空売りに参入する投資家が増えると株式相場が混乱した過去があります。
したがって、法律によって一定の条件を満たした銘柄については空売りを原則として規制する空売り規制が設けられています。
「金融商品取引法施行令」および「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」によって空売り規制が定められています。
内容としては「トリガー抵触銘柄」について直近取引価格以下で51単元以上の信用新規売り注文を、直近公表価格以下(成行注文も含む)で発注することは禁止されています。
「51単元以上」が禁止ですので、50単元以内であれば、「空売り規制」は適用されません。
この50単元とは、100株単位で取引される銘柄では5,000株、1,000株単位で取引される銘柄では50,000株となります。
また、「トリガー抵触銘柄」とは前営業日終値等から算出される当日基準価格から、10%以上価格が下落して取引が成立している銘柄を指します。
トリガー抵触銘柄の取引の規制は株価の上昇局面もしくは下落局面によって異なります。具体的にはそれぞれ以下の価格での空売りが規制されています。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
空売り規制銘柄に指定される以前であれば、直近公表価格よりも低い価格で注文することができます。
これは株価が上昇している局面でも下落局面でも同じです。
しかし、空売り成行注文やトリガー値段以下での空売り指値注文を発注することはできません。
株価の下落局面においては金融商品取引所が直近に公表した価格(直近公表価格)以下の価格で空売りを行なってはいけません。
例えば、当日基準価格が1,000円の場合を想定してみましょう。
この場合は「空売り価格規制」が適用されるトリガー価格は10%以上価格が下落した900円となります。
したがって、トリガー価格以下の指値で空売り注文はできませんので、株価がそれ以上下落せずに900円であった場合やさらに下落して899円になった場合の指値の空売り注文は不可です。
しかし、トリガー価格を上回る901円以上での指値の空売り注文は可能です。
空売り規制が適用されると株価の上昇局面においては直近公表価格が直近公表価格の一時点前の異なる公表価格を上回る場合には、直近公表価格で空売りを行うことができます。
例えば、当日基準価格が1,000円である場合を想定してみましょう。直近公表価格の一時点前の異なる公表価格が900円、直近公表価格が920円であると仮定します。
この場合、株価が920円以上での指値の空売り注文は可能です。
しかし、直近公表価格が直近公表価格の一時点前の異なる公表価格を下回る価格=919円以下での指値の空売り注文は不可です。
ここまで空売り規制についてまとめてきましたが、「複雑でよくわからない」という方もいらっしゃると思います。
ここでは空売り規制についてよくある疑問を簡単にまとめてみました。
仮に「トリガー抵触銘柄」について直近取引価格以下で51単元以上の空売り注文をした場合には、証券所の審査機能が作動し、当該注文は無効となります。
当該銘柄に関して、空売り規制が適用されていることを知っていたかどうかは関係ありません。
空売り規制対象銘柄であるという認識がなくても注文は無効です。
1回の注文が51単元未満であっても空売り注文を時間を分散して発注した場合は空売り規制に抵触する可能性があります。
この場合は「空売り規制を回避する目的があったかどうか」当該銘柄の発注状況や銘柄の相場環境を考慮した上で「一定の時間内に連続して発注がされたかどうか」が問題となります。
1つの証券口座からの注文は51単元未満の空売り注文であったとしても、発注のタイミングや発注の形態などから、「空売り規制を回避する目的があった」と判断され、複数の口座の注文数量の合計が51単元以上となっている場合は空売り規制に抵触する場合があります。
自分の口座ではなく、家族の証券口座や法人の証券口座を利用した場合も同一の証券口座とみなされ、過料が課される可能性があります。
実際に空売り規制が適用されている銘柄について見てみましょう。
規制銘柄については各証券会社や日本証券所グループがホームページ上で公表しています。
ここからは参考として楽天証券とジャパンネクスト証券株式会社、日本証券所グループが公表している規制銘柄をご紹介します。
2021年7月12日時点で「空売り規制銘柄一覧」として公表されている銘柄は以下の通りです。
銘柄コード | 銘柄名 | 市場 |
---|---|---|
1689 | WT天然ガス上場投 | 東証 |
1689 | WT天然ガス上場投 | Chi-X |
3791 | IGポート | 東証 |
3791 | IGポート | JNX |
3997 | トレードワークス | 東証 |
3997 | トレードワークス | JNX |
3997 | トレードワークス | Chi-X |
4433 | ヒト・コミュニケーションズHD | 東証 |
4433 | ヒト・コミュニケーションズHD | JNX |
4433 | ヒト・コミュニケーションズHD | Chi-X |
4707 | キタック | 東証 |
4707 | キタック | JNX |
4707 | キタック | Chi-X |
6659 | メディアリンクス | 東証 |
6659 | メディアリンクス | JNX |
6659 | メディアリンクス | Chi-X |
7083 | AHCグループ | 東証 |
7083 | AHCグループ | JNX |
7376 | BCC | 東証 |
7376 | BCC | JNX |
7376 | BCC | Chi-X |
7519 | 五洋インテックス | 東証 |
7519 | 五洋インテックス | JNX |
7519 | 五洋インテックス | Chi-X |
7673 | ダイコー通産 | 東証 |
7673 | ダイコー通産 | JNX |
7673 | ダイコー通産 | Chi-X |
8256 | プロルート丸光 | 東証 |
8256 | プロルート丸光 | JNX |
9318 | アジア開発キャピタル | 東証 |
9318 | アジア開発キャピタル | JNX |
9318 | アジア開発キャピタル | Chi-X |
9716 | 乃村工藝社 | 東証 |
9716 | 乃村工藝社 | JNX |
9716 | 乃村工藝社 | Chi-X |
9941 | 太洋物産 | 東証 |
9941 | 太洋物産 | JNX |
9941 | 太洋物産 | Chi-X |
2021年7月12日時点で「空売り規制銘柄一覧」として公表されている銘柄は以下の通りです。
銘柄コード | 銘柄名 | 市場 |
---|---|---|
3791 | IG PORT, INC. | 東証 |
3997 | TRADE WORKS CO., LTD. | 東証 |
4433 | HITO-COMMUNICATIONS HOLDINGS, INC. | 東証 |
4707 | KITAC CORP. | 東証 |
6659 | MEDIA LINKS CO., LTD. | 東証 |
7083 | AHC GROUP INC. | 東証 |
7376 | BCC CO., LTD. | 東証 |
7519 | GOYO INTEX CO., LTD. | 東証 |
7673 | DAIKO TSUSAN CO., LTD. | 東証 |
8256 | MARUMITSU CO., LTD. | 東証 |
9318 | ASIA DEVELOPMENT CAPITAL CO., LTD. | 東証 |
9716 | NOMURA CO., LTD. | 東証 |
9941 | TAIYO BUSSAN KAISHA, LTD. | 東証 |
7647 | ONTSU CO., LTD. | 東証 |
4169 | ENECHANGE LTD. | 東証 |
3159 | MARUZEN CHI HOLDINGS CO., LTD. | 東証 |
9232 | PASCO CORP. | 東証 |
3477 | FORLIFE.CO.,LTD. | 東証 |
7276 | KOITO MFG. CO., LTD. | 東証 |
2021年7月12日時点で「空売り規制銘柄一覧」として公表されている銘柄は以下の通りです。
銘柄コード | 銘柄名 | 市場 |
---|---|---|
3791 | IGポート | 東証 |
7083 | AHCグループ | 東証 |
7519 | 五洋インテックス | 東証 |
8256 | プロルート丸光 | 東証 |
すべての銘柄に空売り規制が課されるわけではありません。取引の性質上、空売り規制の対象外となる銘柄が存在します。
日本取引所グループによれば、以下の銘柄は空売り規制の対象外となります。
一定以上の空売り水準に達した場合は、投資家は利用している証券会社に残高報告義務があります。一定の水準とは発行済株式総数の0.2%以上です。
この場合は約定日の翌々営業日の午前10時までに以下の2つの事項を証券会社に通じて取引所に報告する義務があります。
実務上は発行済株式総数の0.2%以上の空売り残高に近づいた場合には証券会社から投資家に連絡がいき、他社での同株式の保有状況について問い合わせがある場合があります。
さらに発行済み株式総数の0.5%以上の空売り残高を有する投資家は取引所のホームページに公表されます。
空売り規制に違反して、空売りを行った場合は30万円以下の過料が課される可能性があります。
証券会社によっては空売り規制違反の疑念がある場合は注意が喚起される場合があります。
空売り規制の概要や空売り規制対象銘柄について解説してきました。
空売り規制は逸脱する目的があってもなくても違反すると過料が課されますので、空売りに参入する投資家は空売り規制についてしっかり理解しておく必要があります。
空売り規制対象銘柄は毎日、日本証券所グループのホームページで公表されていますので、定期的に確認しましょう。
空売りは空売り規制に気をつければ大きな利益を狙える手法ですので、空売り規制に注意しながら、上手に取引を行いましょう。