誰もが知っているダイヤモンド、その価値はどうやって決められているのか?そして暴落の可能性はないのか?投資家の皆さんにとって、興味のあるテーマだと思います。本記事では、ダイヤモンドの価値の決め方から、暴落の原因になりそうな要素までを解説していきます。
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ダイヤモンドの価値が、売り手の総意、つまり徹底した価格カルテルのようなもので決められていることを、ご存知でしょうか?この究極のマーケティングともいえる価値のコントロールは長年、デビアス社によって取り仕切られてきました。ほんの数年前まで「ダイヤモンドは永遠の輝き」などのテレビコマーシャルが流れていたことを、覚えている方もいるでしょう。
デビアス社は1880年に創業された、南アフリカ・キンバリー鉱山のダイヤモンドを一手に収める鉱山会社であり、創業者はセシル・ローズというイギリス人です。彼はイギリス帝国のアフリカ統治に乗じて、ダイヤモンドで大富豪となり、ローデシアという国の首相にまで上り詰めました。
価格を維持する仕組みは、採掘から販売までのルートを取り仕切り、関係者全員を儲けさせることにあります。具体的には、南アフリカで採掘したダイヤモンドの原石をインドでカットし市場へ流すのですが、この時取引業者をレベル分けして「サイト」という販売組織を作りました。
このサイトは、抜け駆けして安く販売する者を生み出さない仕組みとして非常によく機能しています。そして、抜け駆けリスクに対して、デビアス社が最も力を入れていることは、市場価格の維持です。一般社会へダイヤモンドの価値を訴求する役割を、デビアス社が一手に引き受けることで、安易に安く売られるダイヤモンドは偽物の烙印を押されます。わかりにくいかもしれませんが、鉱物でありながら、カットや販売ルートなどの総合評価でダイヤモンドの価格を決めること、そしてその評価をデビアス社が取り仕切ることで、高値安定を実現しているのです。
ダイヤモンドの価値は、「鉱物でありながら、カットや販売ルートなどの総合評価で決まる」ということを証明する事実を一つ紹介します。それは、最も根源的な希少価値を決める要素の一つである、埋蔵量です。
誰でも知っている鉱物資源で、ダイヤモンドと同じように装飾品としての価値を持つものにゴールドやプラチナがあります。特にゴールドは埋蔵量が少なく、採掘された総量が18万トン、確認された埋蔵量が5万トンしかありません。合計するとオリンピック公式行儀用プールの5杯分に満たない程度です。ゴールドはこの希少性と、歴代権力者に富の象徴として扱われてきたこともあり、現代でも価値を維持しています。
しかし、ゴールドの価格はコモディティ市場で取引されるため、大きく変動します。希少価値だけならダイヤモンドよりはるかに高いにもかかわらず、その物質的価値しか取引されないため、価格が経済状況に大きく影響されるのです。
一方、ダイヤモンドは埋蔵量だけなら1000兆トンもあると言われています。この事実を突き止め発表した米・マサチューセッツ工科大学、ハーバード大学、カリフォルニア大学の合同研究チームは、ダイヤモンドは地質学上の観点から見ればありふれたものだ、と発表しています。
もちろんダイヤモンドの原石の価格は、取れる場所や買い取り手によって価格が変動します。しかし、一般消費市場で取引されている価格からすれば非常に安価です。このダイヤモンドの原石に、輝きを最大限に発揮させるカットを施すことで、その価格が大幅に上がります。埋蔵量では決して希少価値があるとは言えないダイヤモンドは、原石からカット、市場に出るまでのルートを総合して価格が決まるので、ゴールドなどの希少金属とは価格形成原理が異なるのです。
近年、技術の発達によって、合成ダイヤモンドが本物と区別がつかないほど精巧に作られるようになりました。その精度は、従来の宝飾鑑定士の手法では区別がつかないほどです。厳密には判別可能ですが、1億円近い特殊な装置を使って含有窒素量をはかるという、宝飾品の鑑定では、現実的ではない方法になります。そんな合成ダイヤモンドが、天然ダイヤモンドの1/10の価格でできるというのです。
このニュースが発表されたとき、ダイヤモンドの資産価値が大きく棄損するのではないかと、話題になりました。単純に考えれば、従来のダイヤモンドとほぼ同じ品質のものが安く手に入るなら、わざわざ高いお金を払わないでしょう。
しかし、価格暴落の心配はなさそうです。なぜなら、この人工ダイヤモンドを積極的に取り扱っているのが、他でもないダイヤモンド産出最大手のデビアスグループだからです。
これまでも説明してきた通り、デビアス社はダイヤモンドの生産から販売まですべてのルートを総合してダイヤモンドの価値を維持してきました。この人工ダイヤモンドについても、同社が開発し評価・鑑定することで、価格をコントロールすることができます。具体的に言えば、人工ダイヤモンドの市場を作り、天然ダイヤモンドと区別すれば、同社にとっては稼ぎの源泉が増えるだけになるのです。
時代を超えたダイヤモンドの価格コントールシステムは、技術だけで崩すことは難しいでしょう。
ダイヤモンドの価値の決められ方から、その価値を暴落させかねない要素の紹介をしてきました。時代を超えたダイヤモンドの価値維持システムは、様々な危険にさらされながらも機能し続けています。人間の欲に根差した価値決定システムは今後も維持され続けるでしょう。